労働基準監督署の是正勧告とは?調査が入る4つのケースと従わない場合の罰則や受けた際の対処法
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働き方改革が加速している今、労働条件違反への取り締まりがますます強化されています。
是正勧告(ぜせいかんこく)という労働基準監督署による立ち入り調査もその一つです。名前は聞いたことがあっても、どんな調査が行われるかよくわからないという人も多いのではないでしょうか。
そこで労働基準監督署の調査のチェックポイントや、是正勧告の内容、是正勧告を受けた場合の対処などを市場シェアNo.1の勤怠システムを提供しているタッチオンタイムがご紹介します。
是正勧告に関する正確な知識を身に着けたい方は、ぜひ参考ください。
目次
是正勧告とは?
是正勧告は、労働基準監督署が企業への立ち入り調査の結果、法令違反があると判断された場合に行われる手続きです。労働基準監督署は、法令違反に対しての是正を企業に求めます。
是正勧告を受けると、是正勧告書が発行されます。是正勧告書に記載された期限までに法令違反の事柄を改善することが求められます。
なお、是正勧告は、「行政処分」ではなく「行政指導」なので、強制力はありません。改善をするかどうかは、企業の判断に委ねられます。
しかし、是正勧告を受けた内容を改善をしなかった場合、司法処分を受けるリスクがあります。ですので、早めに改善して労働基準監督署へ報告するのが賢明です。
是正指導との違い
是正勧告と似た言葉に是正指導があります。
この違いは、是正勧告は法令違反が明らかな場合に出されます。それに対して、是正指導は法令違反の可能性がある場合、または改善した方が良い事柄に対して出されます。
是正勧告と是正指導は、法令違反の可能性の度合いの違いと認識しておきましょう。ただし、是正指導で指摘された内容は、できる限り改善しましょう。改善が終わったら、労働基準監督署へ報告をしましょう。
労働基準監督署による立ち入り調査
立ち入り調査では、労働基準法を遵守しているかどうかをタイムカードや書類の確認、従業員への聞き込みで調査をします。
特に、就業規則や労働時間や有給は厳しくチェックされます。
あらかじめ、就業規則を整えておき、勤怠管理をしっかりと整備しておくことが重要です。特に勤怠管理に不備がある場合は、是正勧告を受けるリスクが高まります。
労働基準監督署の調査が入る4つのケース
労働基準監督署はどのような場合に調査に入るのでしょうか? まずは、調査が入るケースを紹介いたします。
労働基準監督署によって行われる調査を、「臨検監督」といいます。労働基準監督署に所属する監督官には法律による権限が与えられており、この臨検監督を拒否することは原則不可能です。労働基準監督署が行う臨検監督の実施には、主に以下の4つのパターンがあります。
1.主体的または計画的に対象事業場を選ぶ
「定期監督」と呼ばれ、計画的に行われる調査です。どのような基準で調査対象となる企業を選定するかは、厚生労働省の公式サイトにて毎年4月に公開される「地方労働行政運営方針」が大きく関係しています。この方針に基づき、各都道府県で重点方針を決めているのです。
2.労働者からの申告があった
「申告監督」と呼ばれ、臨検監督でもっとも多いケースです。平成27年の新規申告受理件数は26,280件にのぼり、違反事業場は15,782件で全体の60%でした。
3.労働災害が発生した
「災害時監督」と呼び、大きな労働災害が発生したときに調査が入ります。労働災害が起こった原因の究明や、再発防止を目的とする調査です。
4.是正勧告を受けた
「再監督」と呼び、是正勧告を受けた企業が正しく改善をしたかを調査します。また、期日までに報告をしなかった場合も再度調査を行います。
労働基準監督署から事前調査指示を受ける内容
では、臨検監督はいつ行われ、予告などはあるのでしょうか?臨検監督は原則予告なしとしています。
しかし、実際には予告して調査に入るケースが多いです。電話で調査予定日を連絡したり、ファックスで調査予定日や準備しておく書類を告げたりします。
上でも少しお伝えしましたが、要求される書類は調査によって異なります。
一般的に共通して要求されるものは、会社組織図、労働者の名簿、就業規則、雇用契約書、賃金台帳、タイムカード、時間外労働や休日労働に関する協定届、健康診断個人票などです。調査の段階で追加書類を求められることもあります。
調査を乗り切るための事前の改善
こういった臨検監督で指摘を受けないようにするためにはどんなことをすれば良いのでしょうか?
臨検監督の実施前に改善しておけば、労働監督署からの調査で指摘を受けずに済みます。調査は、「労働条件自主点検表」の内容に沿ってチェックします。この労働条件自主点検表とは労働基準監督署から送られてくるもので、臨検監督前にするセルフチェックのポイントが書かれたものです。
そのため、「労働条件自主点検表」に従って問題点を事前に把握し、改善しておけば、労働基準監督署の対策は可能です。
調査前の自主的な改善例項目
労働条件自主点検表に基づき、自主改善した事例をいくつか挙げます。
- 通常の労働者が10人以上おり、実情に合った就業規則を作成した。
- パートタイム労働者を雇っており、適用の就業規則を設けた。
- 1週間の所定労働時間を40時間以下に定めた。
- 労働時間が6時間以上8時間以下の場合45分以上、8時間以上なら60分以上の休憩時間を取るよう定めた。
よくある是正勧告内容
上でもお伝えした通り、労働基準監督官が調査を行った結果、法令違反があった場合に行われるのが是正勧告です。では、実際にどのような是正勧告が行われているのでしょうか? 定期監督ではおよそ7割の事業場で法令違反が報告されています。平成27年の違反内容で多いものは、以下の通りです。
- 労働時間 20.8%
- 安全基準 19.1%
- 健康診断 15.1%
- 割増賃金 14.5%
- 労働条件の明示 11.6%
また申告監督の処理状況を見ると、違反事業場比率は60%で、15,782件の違反事業場が確認されました。申告の場合の違反内容については賃金の不払いが圧倒的に多く、解雇や最低賃金違反も問題となっています。
違反内容としては労働時間に関する違反が最も多いです。労働時間は原則として、1週で40時間、1日で8時間(休憩時間は除く)を超えて労働させてはいけないことになっています。近年、特に長時間労働は過労死などにつながる可能性があるので、労働基準監督署でも重点項目として取り締まられています。
就業規則に関する違反
従業員が10名以上所属する事業所では、就業規則の作成と労働基準監督署への届け出が必要です(労働基準法第89 条)。また、就業規則の内容を変更した場合も労働基準監督署への届け出が必要です。
もしも、就業規則の必要事項に記載漏れがあったり、そもそも就業規則を作成していなかったりすると、是正勧告の対象となります。違反が認めらえると、30万円以下の罰金を支払わなければなりません。
労働時間に関する違反
上でもお伝えした通り、労働基準法では、労働時間は原則1日で8時間、週で40時間までとされています。
また、時間外労働を含めても、2019年4月1日から「働き方改革」により、以下のようになりました。
- 年間720時間以内
- 複数月平均80時間以内
- 月100時間以内
これらに違反した場合、是正勧告を受ける場合があります。6か月以下の懲役または30万円以下の罰金になる可能性があります。
有給に関する違反
2019年4月1日から「働き方改革」により、年次有給休暇の取得が義務化されました。
以下の2点に該当している場合は、基本的に年次有給休暇が付与されます。
- 雇入れの日から6か月継続して雇われている
- 全労働日の8割以上を出勤している
※パート・アルバイトで働く従業員にも有給休暇は付与されます。その場合は労働日数に応じて有給休暇の付与日数が変わります。詳しくは『【年次有給休暇が義務化】勤怠管理と併せて効率的に有給管理しよう 』をご覧ください。
有給の取得をさせなかった場合、是正勧告の対象となります。有給に関する違反を改善しなかった場合、従業員1人に対して最大で30万円の罰金となります。
是正勧告に従わない場合の罰則
是正勧告は行政指導であって行政処分ではありません。つまり、法的な強制力は伴わないということです。しかし法令違反だと指摘されているため、虚偽の内容を伝えた場合、繰り返し是正しない場合や見るからに悪質だと判断された場合は、検察庁から書類送検される可能性があります。その結果社名が公表されるなど、各法律で定められた罰則が適用される場合も出てきます。是正勧告を受けたら、無視せず対応するべきでしょう。
是正勧告書の概要&交付された後に行うこと
調査の結果法令違反があり是正勧告を受けると、交付されるのが是正勧告書です。違反事項と是正期日が記載されており、交付を受ける際は受領日、受領者職と受領者氏名の署名捺印が求められます。
是正勧告書を交付されたら指摘があった違反内容を改善し、期日までに是正報告書を出さなければなりません。この是正報告書は特に書式などは決まっていませんが、違反内容と是正内容、是正完了年月日を記載し、会社名と所在地、代表者名を記名押印したものを提出するようになっています。
また法令違反でないものの改善が必要とされた場合、「指導票」という別の書類が交付されることもあります。これも是正勧告書と同じように、改善状況の報告が必要です。
是正勧告は人事労務管理を改善するチャンス捉えましょう。労働契約内容や就業規則、人事制度、社員の勤怠管理など見直すいい機会となります。 また、是正報告書を提出することで「労働法令違反状態を何年何月何日にどのような措置を行い是正したか」という事を行政側の受領印付き書面にて証明できるようになります。
例えば、従業員のケガなどで事業主の民事上の責任が問われた場合、是正報告書を提出していなければ、安全対策実施内容とその実施日を証明することが難しくなってしまいます。
そのような状況にならない為にも是正勧告書と指導票を交付された後には、指摘内容・是正内容をもとに迅速に労働環境の是正を行いましょう。
是正勧告を受けた場合の対処法
上でもお伝えした通り、是正勧告を受けた場合の対処法は、迅速に是正を実行することです。
是正勧告を無視した場合は、司法処分を受けるリスクがあるためです。
社会保険労務士や弁護士などの専門家の知恵も借りつつ、是正勧告を受けた部分を速やかに改善して、労働基準監督署へ提出をしましょう。
なお、社内の勤怠管理の体制が整っていない場合、再度是正勧告を受けるリスクがあります。勤怠管理ソフトを導入して、勤怠管理をしっかりしておけば、再び是正勧告を受けるのを防止できます。
是正勧告を受けた場合、公表されるのか?過去是正勧告を受けた企業2例
是正勧告を受けた場合、公表されるのでしょうか?平成27年までは是正勧告を受けても企業名が公開されることはありませんでした。しかし、平成27年以降は是正勧告でも一定の要件を満たしている場合は、企業名を公表することになりました。
- 社会的な影響が大きい企業
- 違法な長時間労働が複数の現場で繰り替えされていること
企業名を公開されると企業のイメージダウンになるので、是正勧告を受けないように日ごろから法令は遵守しておきましょう。
なお、過去に是正勧告を受けた企業を2社紹介します。
是正勧告を受けた企業の事例1ワタミ株式会社
ワタミ株式会社は、2020年9月に女性社員の残業代の一部を支払っていなかったため、是正勧告を受けました。女性社員は2018年から長時間労働をしていたそうです。
是正勧告を受けた企業の事例2 株式会社SUBARU
株式会社SUBARUも2017年7月に群馬の製作所で社員複数名に対して、未払い残業があったとして、是正勧告を受けています。この群馬の製作所では、残業時間の把握ができておらず、社員の自己申告で勤怠を管理していました。また、社員が実際にの労働時間よりも短い時間で勤務時間を申告をしたそうです。
労働環境の整備と会社の明るい未来のために
調査で違反が見つかると、是正勧告を受けることは避けられません。是正勧告を受けずに済むためには、日頃から自社の労働環境をよく把握し、従業員の労働実態をつかんでおくことが求められます。また急な調査が来ても慌てないよう、資料や規則の見直しといった事前の準備も必要です。労働基準監督署の調査対策は、労働環境の整備にもつながります。会社の明るい未来のためにも、職場の労働環境の把握や改善に取り組んでみてください。
職業の労働環境の把握や改善に取り組むのに必要不可欠なのが勤怠管理のシステム化です。
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